土地の伝承と物語再生


不意をついて襲ってくる天変地異。

予兆や予測で感知できるものもあるだろうが、想定外の災害が起こることのほうが断然多い。緊急地震速報も、ほんの数秒前の告知である場合が多いから、身構えるぐらいしかできない。

 

あの熊本地震がそうであった。2016年4月14日、熊本市益城町を震源とする震度7の大地震が発生。その時、福岡市の仕事場にいて震度4の揺れを感じたが、それでも心臓が飛び出るほどに驚いたものだ。速報は熊本震度7を叩き出す。大分も大きく揺れたようだが、これは熊本や大分だけの地震ではない、九州が揺れたと感じた。二日後以降には震度6以上の地震が立て続けに起こった。「九州は大地でつながる大きな舟」だと実感したのは、熊本地震がきっかけだった

 

東日本大震災をはじめ、各地で自然災害が多発している。近年、九州北部でも豪雨被害が頻発、大きな被害をもたらした。その都度、遠近から駆けつけるボランティアの方々の行動力と無償の精神には頭の下がる思いだ。人が生き合うことの尊さを行動でしめしてくれたのも彼らであった。東日本大震災での災害ボランティア活動には一度でかけたものの、体力も財力も乏しく、幾度も被災地へ飛んでいけず、ただじっと事態の終息を見守ることしかできないわが身のなんと不甲斐ないことだろう。どこか忸怩たる思いをずっと抱いてきた。


それでもなにかできることはないか。ふと足元に目をやった。どこで起きるかわからない災害に右往左往する以前に、いま住んでいる土地についてどれだけ知っているだろうか。この地はこれまでどんな災害の歴史を刻んできたのか。なぜ地震被害が多いのか、土砂崩れが多いのか。地名から読み解くこともできるだろう。なにしろ九州は阿蘇山や桜島、雲仙・普賢岳、霧島などの活火山から目が離せない。とくに阿蘇山は九州の地質や資源に多大な影響を与えている。土地の特性を知っているのと知らないのでは、災害に対する向き合い方も変わってくるのではないか。

 

大局的な視座だけではない。とある町の片隅に小さな石碑があるという。その昔、土地に住んでいた先人が、後世のために「二度と被害に遭わないように」と祈りを込めて伝え残してくれているものだが、いまや存在すら忘れられているというのである。果たして私たちは先人のメッセージをしっかりキャッチしているだろうか。

 

さらに調べていくと、災害に遭った先人たちが後世に伝え残してくれた文献や遺構、祭りや習慣が数多く残されていることを知った。現代では環境が大きくことなるため通用しない事例もあるだろうし、風化しているものも多いと聞く。それでも先人たちの伝承を掘り起こすことは「土地を読む」ことにつながる。土地を読むとは、その土地に暮らしていた人々の物語を知ることにほかならない。いま残されている伝承がわずかだとしても、それらを頼りに調べを進めれば、埋もれている物語を再生することもできるのではないか。

 

 

自分は大丈夫だと根拠もなく思い込むことへの警告を促すと同時に、九州に住む方々が「わが町の土地の歴史を災害から読み解く」一助となる活動ができれば、という思いを込めて「九州災害史」編集に着手する。

 

 

2020年3月24日

 

 


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